「ODあるある」という言葉がある。
例えばうちの子は遅刻して目立つのがイヤなので、朝いちばんに行けなければ1日学校へは行かない。
登校の「ALL or NOTHING(オール・オア・ナッシング)」は、生真面目な子が多いODっ子の「あるある」の1つで、その場合は登校できる日がぐんと少なくなる。
日本の子どもは学校が生活のほぼすべてなので、他に逃げ場もなく親子で途方に暮れる。
公立の中学校に(2016年4月~2019年3月)在籍した我が子は、入学前から起立性調節障害(OD)の症状が出ていた。
入学当初は時々休みながらも何とか通っていたが、次第に起きられない日が多くなり、中1秋の中間考査に起きられなかったのを境に悪化した。
1日20時間寝続けるなどして入院適用になり、翌年1月には入院する。
以下は私が最後には開き直って、ある程度平和な日々を家庭で送ることができた、わが家の中学校生活「乗り切り術」である。
自治体や学校によるとは思うが、実際にできたことなので参考にしていただければと思う。
給食費は止められる!
「まず、お金かい」と言われそうだが、毎月銀行口座から引き落とされる数字は、「登校していないのに…」という想いをはっきりと思い起させる。
何がきっかけだったかは覚えていないが、中3になる春休みだったと思う。
中学校の事務員と電話で話すことになった。中年の男性職員だった。
「お母さん、給食止めはったらよろしいねん。もったいないでしょ」
「でも…」
「最近はわりと沢山の方が心配してはるからわかります。登校した時に給食がなかったら子どもが困るって思ってるんでしょ。大丈夫、給食はだいたい多めに用意してあるんです。もし足りなかったら、1日やそこら担任がガマンしたらよろし」
ベテランの説得力。
「では止めてください。ありがとうございます」
気がラクになった。
行けるようになったら再開してもらえばいいだけのことだった。(再開には数日かかる)
ちなみにうちの市では、教材費も1年分を月割りで給食費と一緒に引き落とされる。
隣の学区に住む知り合いのお子さんは、不登校で私立の通信制中学に通い始め、機嫌よく通っているのでもう公立には絶対に戻らないからと、義務教育期間中で「籍」は消せないが、所属となるクラス名簿には載せないように頼み、プリント・教材費も払わないで済むように教育委員会と掛け合ったそうだ。
市では初めてのことらしかったが、第3子だったこともありお母さんの肝も据わっていた。
その後のいい前例になっているのではないかと思う。
「登校しない」を前提にする
うちの子の場合は登校する日の方が少なかったので、毎朝学校に欠席の電話をするのは止めて「登校する時だけ連絡」させてもらった。
「登校しない」が前提だ。
そもそも朝は、学校の一番忙しい時間帯である。
こちらも担任が出勤してくるタイミングを狙って電話をして「行けない」事実をお知らせするのは、物理的にも精神的にもかなりな負担である。
「行かない前提」にすると、ずいぶんストレスは減る。
起きてこない時に無理やり起こそうとしても、ODっ子はびくともしない。
「頭、痛い」とうなることもあるが、後で聞くと記憶にない。
脳が納得しないと起きられないのである。
それならば起きた時から楽しく過ごそう、と発想を変えられた。
夕飯作りや窓掃除の家庭内バイトを設定したりした。
中学生が保護者なしで学区外に出ることは校則で禁じられているが、何かしらの社会活動をさせる為に、好きなメイク用品やアニメグッズを見に市街地へ出かけることも親の責任で許した。
私がパート勤務の日は、それはそれで本人は気楽に過ごせたようだし、私も仕事で脳を切り替えることで、帰宅してからは新鮮な気持ちで接することができた。
起立性調節障害の子は病気で登校できない訳だが、欠席も長期になると勉強についていけない、友達がいないなど「行ってもイミがない」→「行きたくない」という不登校状態になる。
それでも、子どもなりに押さえておきたいと思う行事などには行こうとする。
我が家では、学年最初にもらう年間行事表から行事類を拾って、冷蔵庫に貼っている家族カレンダーに書き込み、本人が学校生活の流れはわかるようにしておいた。
時々「2学期から学校へ行くから始業式の翌日から行く」と言ったり、「運動会の次の週から行くわ」と言ったりして、その日は比較的起きられた。
自律神経系の病気なので、本人の意思が強いと這ってでも行こうとするのである。
都合のいい病気だなんて思ったりもするが、思春期にストレスなども要因で発症するというのだから仕方ない。
まあ、数日は行けても体力もモチベーションも充分でないと長続きはしないのだが。
学校のメールアドレスを教えてもらう
学校に電話するのに適した時間帯は、だいたい朝か放課後である。
それでも職員会議があったり、短縮授業だったりと時間が読みにくいので、伝えるだけの連絡は、前夜や早朝など都合のよいタイミングで送っておけるeメールでできればありがたい。
ただ学校側もメールアドレスを公開するのは、モンスターペアレントの苦情に使われる恐れもあるのか積極的ではなかった。
教師によっては個人のメールアドレスで連絡を取るなどしてくれるケースもあるようだが、うちの場合は教頭が管理する学校のアドレスを教えてもらった。
ODっ子は時々、前夜に「明日行くかも」などと言い出す。
そもそもうちは「行かない前提」なので、そういう場合は朝イチにでも担任には知っておいてもらいたい。
なので前夜に一報を入れておき、当日は家を出たら「今、登校しました」と連絡をする。
なぜ「家を出たら」かというと、朝は脳血流が少なくて起きにくいODっ子、制服に着替えて朝食も済ませた時点でふと見ると、床につっぷして爆睡していたことが何度かあったからである。
そうなると、たたこうが揺すろうが起きない。
ともかく学校へ向かってからでないと、登校できるという保証がない。
我が家では、「家を出てから連絡する」も鉄則であった。
ちなみに学校に送ったメールは、教頭が印刷して担任に渡してくれる。
2年次の担任は、「私のお返事は、電話か直接お会いした時にしますね」と言った。
メール画面での会話はトラブルの元になることもあるので、用心しているのだろうと思った。
気配りのある担任だったので、もちろんそれで充分だった。
「生存確認」はイヤなら断って良い
「生存確認」という呼び方を知ったときには驚いたが、長期欠席の子どもの担任は、直接子どもの顔を見るように言われていることを、私は最初知らなかった。
うちの子は大人批判が激しく、学校の教師には会いたがらなかったので、2年次にプリントなど配布物を定期的に持ってきてくれる担任には、私が様子を伝えていた。
ただ、最後の登校から3カ月ほど経ったころ、なんとなく「(子どもに)会いたい」という気持ちが強く表れている感じがしたのと、ちょうど大阪府で統合失調症の女の子が密室で亡くなったという事件があったので、ピンときた。
「子どもの顔を直接見ないとダメなんですね?」
「…ええ、まあ…」
月に1度は、ということだったようなので、よく3カ月も待ってくれたと思った。
そこで娘には、このような事件もあったし、先生も言いにくかったみたい、服装がパジャマなら顔だけをひょいと出すのでもいいらしいよとありのままを話すと納得し、「マスクはしない方がいいよね? 虐待で殴られた跡もないって見せた方がよくない?」と笑った。
3年次の担任には、かけられる言葉の内容が不快だと言って会いたがらなかったので、私は断り続けた。
起きる時間がまちまちでも、登校していなくても、ずっとパジャマでも、家で機嫌よく料理や好きなことをしながら笑顔で暮らしていたので、それを乱されたくなかった。
やがて高校進学が近づくと自主的にポツポツと登校し始めたので、問題は自然と解消した。
最後に子どもを守れるのは親だけなので、そこは譲らなくてよかったと思っている。
親が気持ちを吐き出す場所も必要
中学校入学時に、自治体が派遣するスクールカウンセリングの案内プリントがあった。
週1日在校していて、親も受けられた。
月1回無料で、当時はまだ重症ではなかったが一度行ってみたら、続けて来ませんかと誘われた。
続けていて正解だった。
うちの子は通わなかったが適応教室の様子や情報も聞けたし、起立性調節障害の子どものその後の話も聞けたりした。
「子どもは今、『まゆごもり』していてエネルギーを溜めているんですよ」と言われたり、部屋を片付けていたと言うとそれはよい兆しだ、と言われたり。
何より、私が自分の気持ちを吐露できる場所が、月に1回あるのはよかった。
変にメディアで言われているアドバイスなどもされないし、秘密厳守なので学校への不満も漏れない。
夫と私、夫と娘の関係についてのグチなどもよく聞いてくれた。
子どもが幼ななじみと出かけた話をすると一緒に喜んでくれた。
一進一退の病状を話してそこで泣くこともあった。
また、患者家族の会にも入っているので、悩んだりストレスがたまったりすると、定例会に行って同じ病気の子を持つお母さん方と思いを共有する。
とかく誤解が多い病気だけに、説明の要らない吐き出し場所はラクで心地よかった。
家族が機嫌よく過ごすことが一番
我が子は現在、通信制で単位を取る高校の週3日登校コースに進学し、いろいろな背景を持つ生徒が通う環境で友達もでき、遅刻や欠席も多いがなんとか通っている。
16歳の誕生日を過ぎると、学校がない日は念願のアルバイトを夕方から入れ、昼に起きてもダラダラ夜を迎えずに済んでいるし、ひと足早い社会経験をしていて、その報告話も微笑ましい。
まだ将来の進路は模索中だが、大学生の第1子を見ていても自分の経験からしても、人生は常に模索の連続なので焦らなくてもいいかなと思っている。
最近の特に小・中学校時代、子どもはがんじがらめにされている。
禁止事項や私から見たら無意味な校則も多いし、受験に向けて追い立てられてばかり。
中学生女子特有の人間関係も面倒くさい。
今、中学校以下で身動き取れずにいる起立性調節障害の親子さんには、今はともかく家族が機嫌よく過ごす工夫をしてほしい。
お母さんがニコニコしている家庭では病気が早く治る、と起立性調節障害の専門医は言っている。
我が家は比較的理解のある学校に沢山ありがたい働きかけをしてもらったし、関係の先生方にはお世話になった。
一方で、我が子に逆効果と思えることにはNOを言えるかよく考えた上で実行してきた。
中学校卒業なんて(今思えば)すぐだ。
ご家庭にあった対処で乗り切ってほしい。
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